2月14日、埼玉県川口市にある川口リリア音楽ホールで行われた東京藝術大学打楽器専攻生有志によるパーカッションのコンサートに誘われた。
藝大生によるシェーンブルクか。
現代音楽の父みたいに言われている人じゃなかったっけ。
無調音楽とか十二音階とか、なにやら難しそうだなあ。
日ごろ、酒を飲みながらジャズばかり聴いている人間には、ちと荷が重そうだ。
ホールのコンサートでは、酒は飲めないだろう。
「イエイッ」とかけ声をかけたり、演奏中に思わず拍手をしたりなんて行儀の悪いこともできない。
身じろぎせず威儀を正して静聴していなければならないんだろうか。
いささか引き気味、及び腰で出かけて行った。
キャパ600人の会場はほぼ満員。
だめもとで聞いてみたら、案の定、「客席での飲食はご遠慮ください!!」
演奏が始まったとたん、あれこれの心配はまったくの杞憂であることがわかった。
楽しいし賑やかである。
明るく軽やかである。
すべての演目における演奏・演技は完璧で、思わず声をかけたくなるほどノリがいい。
休憩をはさんでも2時間を超えない演奏時間も、ちょうどよい。
かなりシビアな練習を重ねてきたのだろう。
演奏会というよりは、<シルク・ド・ソレイユ>を観ているような見事なパフォーマンスにすっかり引きずり込まれてしまった。
演目は、以下の六つ。
1. TAMBOURINE SUMMIT
2. Eight in the BLACK
3. Musique de Table
4. グロッケンシュピールとヴィブラフォンのための「オルゴール」
5. サンジェルマンの広場
6. 浄められた夜 (アルノルト・シェーンブルク)
院生から学部1年生の12人が、各種打楽器だけでなく、マリンバやヴィブラフォンまですべての楽器を担当する。
さすが藝大生、何でもできちゃうんだと感心したが、なに、なに、今の若いミュージシャンは何でもできちゃう人たちだった。
1.から3.までは打楽器のみの演奏で、4.以下が、マリンバなどが入ったいわゆる楽曲という構成。
打楽器だけによる前半3曲が、ぼくにはことのほか面白かった。
もちろん、初めて聴くシェーンブルクもほかのマリンバ演奏も面白く聴かせてもらいました。
1.は、鮮やかな朱色のつなぎを着た4人の奏者が、それぞれ1台ずつのタンバリンをもって、舞台上を激しく動き回りながらタンバリンを叩く。
ただ叩くだけなのに、これにも楽譜があるらしい。
「シンプルな編成であるだけに、詳細に奏法が指定されており、構え方、楽器の持ち位置、楽器を打つ指の本数・指以外での奏法・打点、さらには普段は持つだけで十分な役割を果たしている左手も駆使して音を出すと楽譜に記されている」
2.は、スネアドラム(小太鼓)のみによる四重奏曲。
これも観ていて実に楽しい演奏だった。
スネアドラムの「スナッピー(響き線)を効果的に使用している・・・その他にオープンリムショット、クローズドリムショットなど、スネアドラムから出せる音色の全てを取り入れた・・・さらには奏者に様々なパフォーマンスを指定して、聴衆の聴覚だけではなく視覚でも楽しめる楽曲に仕上げた」
一番の見ものは3.。
三つのテーブルの上の小さな光る板を、スポットライトされた白い手が、ダンサーのように踊り、テーブルを叩く。
ただそれだけなのだが、動きとリズムが目まぐるしく変化していく。
一糸乱れぬ6本の手の動きにあっけにとられ、「トントン」という木の板を叩く小さな音に次第に魅了されていく。
人類が言葉を持たない原始時代、コミュニケーションは音によって行っていた、と何かで読んだ。
ぼくの感覚は、おそらくその時代の人間とそう変わっていないようだ。
だからだろう、精妙かつ複雑に構成された楽曲よりも、打楽器から発せられるただの<音>に強く反応してしまう。
東京藝大生有志による打楽器のパフォーマンス、来年もぜひ聴いてみたい。
今回、声をかけてくれた石若駿さんにお礼を言わねばならない。
ありがとうございました。
来年また誘ってください。
(「・・」内は、パンフレットより引用)