2011年06月23日

お客様は神様です


・・・半分作って半分は客  寺山修司

劇団「天上桟敷」を主宰し、劇作家、詩人、歌人、俳人、映画監督、小説家、脚本家など各ジャンルで活躍、若くして病死した寺山修司の言葉です。
何が本職かと訊かれると「寺山修司です」と答えるほど自身に恃むところの多かった寺山だが、彼ほど<客>を意識して作品を作り続けた男もいなかった。

自分が作ることができるのは半分だけ、残りの半分は客が補完しはじめて作品として完成する。
寺山は、死ぬまでその姿勢を貫いた。

市中劇「ノック」は、究極の参加型演劇だった。
無関係の通行人や人の家をも巻き込んだこの芝居は、のぞきで彼が逮捕されたことなどもあり、話題になった。
「ハプニング」という言葉が流行語になるなど、一種の社会現象にまでなった。

・・・作品を読んでいただくこと、劇場に足を運んでいただくことが、一番幸せだった

昨年亡くなった、井上ひさしさんの最期の言葉です。
遅筆堂を名乗り、度々公演が延期されることでも有名だったが、客を大切にし、客を喜ばせることに全精力を注ぎ込んだ井上さんの芝居は、いつも満員の<客>であふれていた。

演劇や小説など、表現の世界は作る人間と受けとる人間がいて成り立っている。
多くの芸術(芸能)家はそのことをよく承知している。
若手作家の奥田英朗さんも、

・・・小説は作家と読者の共同作業です

と明言する。
読者がいなければ存続しえない世界なのだ。


ひるがえって、わが敬愛するジャズの世界はどうか。
ミュージシャンからのこの類の発言にお目にかかることが少ないと思うが、どうだろうか。
ないことはない。

・・・聴く人に喜んでもらえる音楽を心がけています

人気ジャズ・グループquasimodeが、G.W.前の公演でMCしていた。

・・・金をもらって演奏しているかぎり、われわれも芸人です

ひねったもの言いで<客>の大切さを指摘しているのは、菊地成孔さん。

など、ないことはないが、ぼくの知る範囲ではきわめて少ない。
なぜか。

一番の理由は、ジャズの生命である<即興演奏>にあると、ぼくはひそかに思っている。

ジャズの面白さは、演(や)ることにあって、聴くことにない。
ライブで即興演奏を行うプレイヤーを見ながら、時々そんなことを思ったりする。

彼(彼女)たちがひとたび演奏に没入すると、そこに<客>の入り込む余地はない。
<客>は、目の前で行われていることから完全にシャットアウトされてしまう。
エクスタシーを感じながら(と思うのだが)演奏しているミュージシャンの世界に、ぼくらは立ち入ることができないのだ。
なんとももどかしい。
もう少しこっちを見てよって思うのは、ぼくだけのひがみだろうか。
一緒に感じさせてよ、というのはわがままなのだろうか。

即興とは、ミュージシャンのためにのみ存在する世界なのだ、とさえ思える時がある。

ジャズはむずかしい、とよく言われる。
だからこそ面白いの、というのも一理あるが、

・・・詩人とはそんなにもストイックな存在なのかと思わずにはいられない。そんな風に孤高を気取っているから現代詩は読者を減らしたんだ(朝日新聞文芸時評 斉藤美奈子)

というようなことにならなければいいと、一フアンとしては少し心配したりもする。


このコラムも7月で1年になる。
この間、若いミュージシャたちの素晴らしいライブをたくさん聴くことができた。
1年目を記念して、ということはまったくないが、今回は、ライブを聴きながら時々むくりと頭をもたげてくる

・・・彼(彼女)らは、誰のために演奏しているのか

という愚問に対する愚見でありました。

タイトルの<お客様は神様です>は、三波春夫のよく知られたせりふ。
当たり前のこととも思えるが、よくよく考えると、含蓄するところ大なる言葉である、とも思えます。



posted by 松ぼっくり at 00:00 | Comment(2) | TrackBack(0) | コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
一緒に感じさせてよ、の感覚、すごくわかります。

初めまして。
実はこっそりコツコツ覗くこと半年になります。
コラム、好きです。
ライブハウスに行きたくて、後追いで阿佐ヶ谷に行ってみたりしました。

暑いですね。
記事楽しみにしてます。
Posted by チョモ at 2011年07月07日 13:16
チョモさん、ありがとうございました。
一人でも多くジャズを聴くようになってくれればうれしいと願い、単なる一フアンが、年寄りの冷や水と笑われながら書いています。今後とも若いミュージシャンを応援してあげてください。松
Posted by 松ぼっくり at 2011年07月08日 12:32
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