2011年02月10日

みな、なんと早死にするものか


今ではない、むかしの話です。
とはいえ、たかだか40〜50年前のことですが。

今時の人が聞いたら、「なんてバカなことをしていたんだ」と、きっと笑う。
しかし、困ったことに、「バカなこと」には人をひきつけ魅了するという、なんとも厄介なところがある。
あるんです。

1950年ころのアメリカ。
ジャズ・ミュージシャンの多くが、麻薬に手を出し酒に溺れ、若くして死んでいった。
チャーリー・パーカーたちが新しいジャズ<ビバップ>を作り上げ、マイルス・デイビスが<モード>を、ジョン・コルトレーンが<フリー・ジャズ>へと続く道を切り開いていった。
ジャズは、人びとの支持を獲得し、黄金期を迎えることになる。
しかし、ジャズの黄金期はまた、「酒とバラの日々」でもあった。
すぐれたジャズメンは、新しさを追い続けることのつらさや肌の色からなる差別に苦しみ、酒やクスリに救いを求め、その魔力にからみとられていく。
そして、多くが死んでいった。

数え上げればきりがないが。

チャーリー・パーカー 
 行年35歳 麻薬、アルコールの多量摂取。精神病院への入退院を繰り返し、
 心不全により死亡。
ジョン・コルトレーン 
 40歳 麻薬、アルコールの多量摂取。肝臓がん。
ファッツ・ナバロ 
 26歳 麻薬中毒。結核。
ソニー・クラーク 
 31歳 ヘロインの過剰摂取による心臓発作。
ポール・チェンバース 
 33歳 クスリとアルコール 肺結核。
ビッグス・バイダーベック 
 28歳 自己破滅的大酒飲み。統合失調症。
ボビー・ティモンズ 
 38歳 肝硬変。
ビル・エヴァンス 
 51歳 麻薬常習者。黒人ミュージシャンとの信頼関係を築こうとして、クスリに
 手を出し、「歴史上一番時間をかけた自殺」と言われた。

バード・アンド・ディズ [Best of, Limited Edition, SHM-CD] / チャーリー・パーカー, ディジー・ガレスピー, セロニアス・モンク, カーリー・ラッセル, バディ・リッチ (演奏) (CD - 2008) アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード / ジョン・コルトレーン, エリック・ドルフィー, マッコイ・タイナー, レジー・ワークマン, エルヴィン・ジョーンズ (演奏) (CD - 2003) Portrait in Jazz (Hybr) [Hybrid SACD, SACD, Import, From UK] / Bill Evans (CD - 2003)


クスリ、アルコール以外の原因による「早死に」もあった。

リー・モーガン 
 33歳 愛人による射殺。
レム・ウィンチェスター 
 33歳 ロシアン・ルーレットによる事故死。
キャノンボール・アダレイ 
 46歳 大食癖に起因する糖尿病、脳梗塞。
ウェス・モンゴメリー 
 43歳 心臓麻痺。
グレン・ミラー 
 40歳 飛行機事故。
クリフォード・ブラウン 
 25歳 自動車事故。
スコット・ラファロ 
 25歳 自動車事故。ビル・エヴァンスの麻薬依存度を高めることになる。
ワーデル・グレイ 
 34歳 撲殺。
ジャコ・パストリア 
 35歳 集団暴行による殺害。
アルバート・アイラー 
 34歳 溺死体となってハドソン川で発見。他殺説有。


まさに死屍累々。
みな、なんと早死にしたものか。

だが例外もあった。

マイルス・デイビス
マイルスは、「麻薬中毒、病気、狙撃、交通事故と、ジャズメンにつきものの(死)の誘惑をことごとく振り切って」、ついには延命の帝王となる。

マイルス・デイビス自叙伝〈1〉 (宝島社文庫) [文庫] / マイルス デイビス, クインシー トループ (著); Miles Davis, Quincy Troup (原著); 中山 康樹 (翻訳); 宝島社 (刊) マイルス・デイビス自叙伝〈2〉 (宝島社文庫) [文庫] / マイルス デイビス, クインシー トループ (著); Miles Davis, Quincy Troup (原著); 中山 康樹 (翻訳); 宝島社 (刊)


上にあげた人はみな、モダンジャズ創成期や黄金期を華々しく駆け抜けていった今に名を残すジャズ・ジャイアントばかりである。
あまりのすごさに、名前をみるだけで身震いを禁じえない。

だからといって、賢明なるいまの若者は、「ジャズに捧げられた多くの悲劇的な死」を、伝説化し神話化するという愚かさとは無縁だろう。
クスリのせいであれだけの仕事ができたなんて、勘違いもいたすまい。
天才は夭折する、なんていう俗言に肯くこともないだろう。


しかし、繰り返すが、「バカなこと」ほど人を魅了するものはない。

健康志向がまかりとおり、作り出される音楽がヘルス・クラブ的ジャズなんてことになってしまうのも困る。
困るといって、「悪魔に魂を売って」までやるほどのことでもないのでは。とも思う。

「命をかけてなんてやりません。楽しければそれでいい」
あっけらかんとした矢野沙織さんのコメント。

クスリは、「未来を担保にして今の身体能力を増加すること」というけっこうこわい含意をもつ内田樹さんのアドバイスもあります。

ミュージシャンもそうでない人も、<風邪>と<クスリ>にご用心を。


KAWADE夢ムックの「ビル・エヴァンス」特集号に、仏文学者の中条省平さんが「コンセクレーションへ」というエッセイを載せている。
ジャズメンの夭折を、哀切きわまりない、しかし決して美化しない文章でまとめている。
参考にさせていただいた。

「コンセクレーション」とは、「神聖化、(神、目的に)自分を捧げる」の意。
1980年、ビル・エヴァンスが死ぬ直前の演奏を収めたレコードのタイトルでもある。




posted by 松ぼっくり at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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