目の前で行われている演奏を聴きながらも、にわかには信じられない。
あまりの見事さに度肝を抜かれた。
8月15日、世田谷パブリックシアター。
日野皓正 Presents“Jazz for Kids”
「Dream Jazz Band」を聴く。
DJBは、49名の中学生で編成されたジャズバンド。
日本の中学校にもバンドは普通にあり、それ自体、驚くほどのことではない。
DJBのすごさは、今年4月に結成され、この日まで27回しか練習をしていない。
というところにある。
音楽の知識はない、楽譜は読めない、楽器に触ったことがない、中学生たち。
ないないづくしの子が、「ベースをやりたい」と、参加してきたりする。
「ここを押さえるとこういう音が出るんだよ」と、文字通り手取り足取りのレッスンとなる。
そんな<ど>が付く素人たちが、たった4ヵ月の練習で、「エイプリル・イン・パリ」、「サテンドール」、「セントルイス・ブルース」、「キャラバン」など、早い曲、遅い曲、難しい曲10曲ほどを、自在にこなしてしまう。
ビッグバンドの定番、代わりばんこのソロ演奏もちゃんと用意されている。
ソロでは、即興演奏を行う子どもたちが増えてきているんだそうだ。
指導に当たったミュージシャンの先生から聞いた。
晴れ舞台でのソロ演奏、当然、初経験だろう。
態度はおずおずと力無げだが、音はなめらかで力強い。
正確かつスイング感にあふれた演奏だ。
こんなことができちゃうんだなあ。
この驚きはなんだろうか。
言ってみれば、洗い場専門の板前見習いが、いきなり客の前で鮮やかな包丁捌きを見せてくれるとか。
ゴルフのビギナーが、いきなりホールインワンをやってしまったとか。
英語のエの字も知らないような人間が、いきなり外国人とネイティブ・イングリッシュでしゃべりだすとか。
隠されていた才能の突然の発現にびっくりしてしまった、ということか。
新しい知識や技術を取り込んでいく中学生たちの柔軟かつ広範な吸収力は、無限だ。と思いました。
見事な演奏でありました。
もう一つ、忘れてならないのは指導陣のバックアップ。
顔ぶれが、凄い。
トランペットの日野皓正校長以下、西尾健一(Tp)、多田誠司(sax)、守谷美由貴(sax)、後藤篤(tb)、荻原亮(g)、小山道之(g)、石井彰(Pf)、出口誠(Pf)、金澤英明(b)、井上功一(ds)、力武誠(ds)、三科武史(ds)ほか。
日本を代表するミュージシャンばかり。
これだけ揃うのは、ここ以外にはないかもしれない。
このイベントは、世田谷区の支援のもとで行われている。
区立中学の生徒に限り参加できるワークショップ。今年で6回目となる。
「文化の世田谷」を掲げる区の方針に共感した日野皓正さんが音頭を取り、ミュージシャンたちも全面協力体制をとる。
子どもたちの、将来の夢と希望をかなえさせたい。
才能の発見と発展に少しでもプラスになればいい。
これは区長さんの挨拶。
何かに打ち込むことで、たくさんのものを吸収できる能力が無限に広がっていく。
なにより、継続していることが素晴らしい。
これは日野さんの挨拶。
「ジャズは美しい」を、前回書いた。
「ジャズは楽しい」を、今回発見した。
これはぼくの感想。
フィナーレは、DJBに加え、ここを卒業していったOBたちや指導したミュージシャン全員が舞台にあがる。
100名を超す特大ビッグバンドのド迫力演奏に、満員の聴衆もジャズのスイング感に心地よく身を任せ、酔いしれていた。