2013年02月28日

PERCUSSION ENSEMBLE

9台のマリンバを12人で演奏するシェーンブルクを聴きにきませんか。

2月14日、埼玉県川口市にある川口リリア音楽ホールで行われた東京藝術大学打楽器専攻生有志によるパーカッションのコンサートに誘われた。

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藝大生によるシェーンブルクか。
現代音楽の父みたいに言われている人じゃなかったっけ。
無調音楽とか十二音階とか、なにやら難しそうだなあ。

日ごろ、酒を飲みながらジャズばかり聴いている人間には、ちと荷が重そうだ。

ホールのコンサートでは、酒は飲めないだろう。
「イエイッ」とかけ声をかけたり、演奏中に思わず拍手をしたりなんて行儀の悪いこともできない。
身じろぎせず威儀を正して静聴していなければならないんだろうか。
いささか引き気味、及び腰で出かけて行った。

キャパ600人の会場はほぼ満員。
だめもとで聞いてみたら、案の定、「客席での飲食はご遠慮ください!!」

演奏が始まったとたん、あれこれの心配はまったくの杞憂であることがわかった。

楽しいし賑やかである。
明るく軽やかである。
すべての演目における演奏・演技は完璧で、思わず声をかけたくなるほどノリがいい。
休憩をはさんでも2時間を超えない演奏時間も、ちょうどよい。

かなりシビアな練習を重ねてきたのだろう。
演奏会というよりは、<シルク・ド・ソレイユ>を観ているような見事なパフォーマンスにすっかり引きずり込まれてしまった。

演目は、以下の六つ。

1. TAMBOURINE SUMMIT
2. Eight in the BLACK
3. Musique de Table
4. グロッケンシュピールとヴィブラフォンのための「オルゴール」
5. サンジェルマンの広場
6. 浄められた夜 (アルノルト・シェーンブルク)

院生から学部1年生の12人が、各種打楽器だけでなく、マリンバやヴィブラフォンまですべての楽器を担当する。
さすが藝大生、何でもできちゃうんだと感心したが、なに、なに、今の若いミュージシャンは何でもできちゃう人たちだった。

1.から3.までは打楽器のみの演奏で、4.以下が、マリンバなどが入ったいわゆる楽曲という構成。

打楽器だけによる前半3曲が、ぼくにはことのほか面白かった。
もちろん、初めて聴くシェーンブルクもほかのマリンバ演奏も面白く聴かせてもらいました。

1.は、鮮やかな朱色のつなぎを着た4人の奏者が、それぞれ1台ずつのタンバリンをもって、舞台上を激しく動き回りながらタンバリンを叩く。
ただ叩くだけなのに、これにも楽譜があるらしい。

「シンプルな編成であるだけに、詳細に奏法が指定されており、構え方、楽器の持ち位置、楽器を打つ指の本数・指以外での奏法・打点、さらには普段は持つだけで十分な役割を果たしている左手も駆使して音を出すと楽譜に記されている」

2.は、スネアドラム(小太鼓)のみによる四重奏曲。
これも観ていて実に楽しい演奏だった。

スネアドラムの「スナッピー(響き線)を効果的に使用している・・・その他にオープンリムショット、クローズドリムショットなど、スネアドラムから出せる音色の全てを取り入れた・・・さらには奏者に様々なパフォーマンスを指定して、聴衆の聴覚だけではなく視覚でも楽しめる楽曲に仕上げた」

一番の見ものは3.。

三つのテーブルの上の小さな光る板を、スポットライトされた白い手が、ダンサーのように踊り、テーブルを叩く。
ただそれだけなのだが、動きとリズムが目まぐるしく変化していく。
一糸乱れぬ6本の手の動きにあっけにとられ、「トントン」という木の板を叩く小さな音に次第に魅了されていく。

人類が言葉を持たない原始時代、コミュニケーションは音によって行っていた、と何かで読んだ。
ぼくの感覚は、おそらくその時代の人間とそう変わっていないようだ。
だからだろう、精妙かつ複雑に構成された楽曲よりも、打楽器から発せられるただの<音>に強く反応してしまう。

東京藝大生有志による打楽器のパフォーマンス、来年もぜひ聴いてみたい。
今回、声をかけてくれた石若駿さんにお礼を言わねばならない。
ありがとうございました。
来年また誘ってください。


(「・・」内は、パンフレットより引用)


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2013年02月08日

ドローンとノイズ ─サンプラー・アーティスト Blah-Muzikさん

Blah-Muzik(ブラーミュージック)さん。

Blah-Muzik.jpg

2月5日、東京都生まれ。
サンプラー・アーティスト。

SOと<BLAHMUZIK&SO>(BMSO)を結成。
ドラムとサンプラーにより、限りなく自由な表現を追求する。

ハード・サンプラーへ、レコードや非音楽的な音を抽出し、その音自体が持つ「質感」「エフェクト」によって演奏をする。
ライブでは主に「ドラム」と「ノイズ」「サンプリング音」のリアルタイムに作られる音楽の構造を意識した活動を行う。

描かれた音の線は、今そこにあるものを使いクリエイトしていくhiphopを原点に、それに影響を受けつつ、drone、freejazz、noiseへと繋がっていくようなもの。

2012年、関西のアーティストguilty connectorとのユニット<Grim Talkers>を始動。(プロフィールより)


今回は、ユニークな音楽パフォーマンスに取り組むミュージシャン、Blah-Muzik(BM)さんの紹介です。

ちなみに、<BMSO>のもうひとりは、quasimodeやBeatmossなど、ジャズにとどまらず幅広い音楽ジャンルで活躍しているドラマー今泉総之輔さん

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6年前、「hiphopをやるから聴きに来ませんか」と、今泉総之輔さんに誘われ、池袋のMilescafeで初めて聴いた

--なんなんだこれは!?

が、その時の第一印象。

ピアノの佐久間淳さんが入った3人編成だった。
鳴り響く電子音に、ドラムとピアノのなま音が微妙な間合いで絡み合っていく。
初めて聴くものには<なんなんだこれは>としかいいようのない不思議なパフォーマンスに見えた。

うるさいとは少しも感じなかった。
それどころか、妙に惹かれるところがあり、以来今日まで、10回以上聴いている。

聴いていて、時どき、

--なんですか、これは?
--なんのためにこんなことをしているのですか?
--なにを表現したいのですか?

と、聞いてみたくなることがある。
でも聞かない。

何かを表現しようとする人たちに、それは、聞いてはいけないことだから。
それに、答えは決まっている。

--やりたいからやっている

つまらない理屈付けや解説は不要。
いや無用なのだ。
ただ、だまって聴けばいい。
と思って聴いている。

BMさんも、「やりたいからやっている」には違いないはずだが、そうさせる、ある
「内なる衝動」に突き動かされてのことでもあるようだ。

その気持ちを、こんな風に話してくれた。

・・・社会に出て人が感じることとか、簡単に言葉では言い表せないような複雑な
自分の気持ちを、ぼくなりに表現したいと思ってて。
音を出すとき、まず、ある程度大きなテーマを決めてから、あとはその時の衝動で
押し進めないと、納得出来る音が作れないような気がするんです。


BMさんの操作する、いや、演奏する<楽器>は3台のサンプラー。
スウィッチやボタンやレバーを目まぐるしく叩き、震わせ、回し、閉じ込められている音たちを自在に取り出し、開示する。
かざした手を上下し、ゴムのように音を引き伸ばし、押しつぶす、なんて手法も見せてくれる。
一流のマジシャンの手さばきを見るようで、鮮やかさに圧倒される。

でも、主役は音だ。

演奏は、こんな風に進行していく。

<無>。 

忍びやかな<助走>、かすかな音の立ち上がり。

離陸した音は、次第に<拡大>し<縮小>する。

アクロバティックな<上昇>と<下降>を繰り返し、
<直進>し<蛇行>する。

時に、天へと<飛翔>し地の底へ<沈潜>する。

<集束>し<散乱>し、
<混交>と<分離>の化学反応を示す。

音たちは、<生成>し、やがて<消滅>していく。

・・・フリーフォームのループを模索する、終わりのない音楽。(SO)
・・・根本にあるノイズとドローン。(BM)

(droneとは、バグパイプやパイプオルガンの持続低音。降り続く雨の音。単調な低音)

空間を、サンプラーで帯電され、増幅され、変圧・変電された音が飛び回る。

シューシューシューシュー
ザッザッザッザッ
ドーンドーンドーンドーン
ピーピーピーピー
ザスザスザスザス

bmso2 002.jpg

非現実的な音空間に放り込まれ翻弄される。

これが、なんとも心地よい。
面白い。

面白いって?
えっ、なにそれ。ぜんぜん分からない?!

聴いてください。
聴けば分かります。

とは言え、初めての人には、やはりとっつきにくい音楽だろう。

・・・メロディもサビもない。音のエキスがあるだけで、
曲を演ってるわけではないからね(SO)


二人はどう思っているのか。
MCやブログで散見した二人の話をまとめてみると。

・・・<BMSO>は、サンプリングとドラムで表現する音楽。
短すぎて喧嘩売ってるようなフレーズから、インタープレイへ。
ドローンと切り刻んでくるようなボトム、それぞれへ進むループ。
ライブみたいなものの落とし込みとは違うアプローチ。
主人公がいない映画のような曲。(BM)

・・・未知のジャンルで、はまる人多いです。
なぜなら、jazzやダンスミュージック全般、free jazz、hiphop、droneの
要素を、体の感覚とグルーヴだけを頼りに、白人と黒人のどっちでもない二人が、
スピリチュアルな感じで、超常的な判断をし、難しいルールを取っ払って、
ちっこい音から、棚からボトルが落ちるくらいの音圧とlowとリバーヴとただただ
よい音で、ぶっ飛ばしてる。(SO)


ますます、分からない?!

「誰も知らない音を出したい、誰もやらないことをやりたい」(BM)という試みなのだ。
そう簡単には分からない、のはしかたがない。

分からないから面白い、ということだってある。
それが、ぼくが惹かれる理由の一つである。

やっぱり。聴いてもらうしかないかもね。

すべての星は、音を出しているらしい。
有名なドイツのマックス・プランク研究所には、そんな星の音のデータがある、と、どこかで読んだ。

ちなみに、太陽は、

シュッシュ パチパチ

って音なのだそうだ。

時速1670kmで自転し10万kmで公転している地球だって、音を出していないはずがない。
どんな音を出しているのか、いちど聴いてみたいものだ。

今ぼくが、いちばん聴いてみたい音は、137億光年の彼方で今も膨張し続けている宇宙最先端で鳴ってるだろう音。
そこではどんな音が鳴り響いているのだろうか。

こんな音ですよ。
BMさんなら、そのうち、ひょいとサンプラーから取り出して聴かせてくれそうな気がする。

それが、<なんなんだこれは>感をいつまでも抱えながら<BMSO>を聴き続けるもう一つの理由のような気もしている。

音は不思議だ。

からだを無防備に開き、音の放射に身をゆだねる。
心を無に、頭を空にして音の波間を漂っていく。
やがて訪れる開放感、離脱感。
悦楽的である。
驚きであり、感動ですらある。

知り合いにそんな話をしたら、

みごと、感電したようだな。

と、笑われた。

誰も聴いたことがない音を聴かせてくれる・・
無上の開放感を与えてくれる・・
音の一粒一粒に生命を吹き込もうと試みている・・

Blah−Muzikさんです。

一度、聴いてみてください。


☆Blah-Muzik Blog

≪Live≫
2/16(sat)「BMSO」at JazzClub BoozyMuse
3/20(wed)「BMSO」at JazzClub BoozyMuse

2013年 release予定
Grim Talkers 1st ALBUM 「GrimTalkers」
BMSO 1st ALBUM 「タイトル未定」

posted by 松ぼっくり at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ミュージシャン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする