世田谷パブリックシアター
日野皓正 presents “Jazz for Kids”
このコラム3回目の登場です。
またかよ、と思われる向きもあろうかとは思うが、これって何回でもレポートしたくなるイベント。
不思議な吸引力をもったコンサート。
なぜか。
後を引く。
オリンピック中、濫発され、いささか色褪せた感なきにしもあらずの<勇気と感動>という言葉に、ここで新たな命が吹き込まれている。
そんな現場に居合わせているという実感が、聴衆の心を揺さぶり続ける。
心のそこから湧き上がる感動があり、勇気を与えてくれる。
これぞ<勇気と感動>だ。
すごいバンドがあるもんだ。
バンド名はDream Jazz Band、略して<ドリバン>。
@フィナーレは、ドリバンに卒業生、講師陣も加わって全員集合の演奏となる。
ドリバンの演奏には教師陣や卒業生は入らない。
ドリバンの演奏には教師陣や卒業生は入らない。
メンバーは、すべて世田谷区立中学校の生徒たち。
総勢50人。
4月から練習を始め、演奏会の行われる8月までに立派なジャズ・ミュージシャンになっている。
なかには、初めて楽器を手にする子どもだっている。
わずか4ヵ月で、こんなに上達してしまうのか。
驚異。
奇跡と言ってもよさそうだ。
子どもたちを指導した教師陣がすごい。
日本のトップ・ミュージシャンが勢ぞろいだ。
日野皓正校長tp/西尾健一tp/多田誠司as/守谷美由貴as/片岡雄三tb/後藤篤tb/荻原亮g/小山道之g/石井彰pf/出口誠pf/金澤英明b/田中徳崇ds/力武誠ds/グレース・マーヤvo/ほか
Aドリバン演奏の前の<前座>をつとめた講師陣の演奏。
トップクラスの」ミュージシャンたちによる演奏は、鳥肌が立つほどの凄さ・・・。
トップクラスの」ミュージシャンたちによる演奏は、鳥肌が立つほどの凄さ・・・。
講師陣の指導のせいもあるだろう。
しかし、実際に演奏するのは中学生たち。
講師は、手助けなんかしてくれない。
子どもたちだけで、早いのもスローなバラードも、かわりばんこに立つソロだって、立派にこなしている。
短期間でこんなに腕を上げてしまう子どもたちの、吸収力と咀嚼力、表現力にただただ圧倒される。
ジャズは難しい、と言われる。
新しさを追求し、変化にチャレンジする即興演奏は、特にそうだ。
ミュージシャンにとっては、だからこそ面白いということにもなるのだろう。
演奏することが面白く、面白すぎて、つい、聴衆のことなど忘れてしまう。
だが、そこで行われていることを、聴くものはなかなか理解できない。
もっとこっちを向いてよと思いながら聴いている聴衆が、ジャズが難しいと感じる一つの理由ではないかと、いつも思っている。
内向きにならざるを得ないのがジャズの宿命なのだ、と、なかば諦めながらいつも聴いている。
<ドリバン>の演奏は、そんな内向きのベクトルをいとも簡単に外向きに変えてしまっている。
舞台、客席をひとつの音楽空間に変える力を持っている。
たくまずして、ジャズの楽しさを聴くものにアピールしてくれている。
ジャズは楽しい。
のだ。
家族や友人など関係者もたくさん聴きにきているのだろう。
泣きながら聴いている人があちこちにいる。
こんなシーンもあった。
女の子が、トロンボーンでまるまる1曲ソロを吹く。
B1曲通してソロをとった中岡さん。
最初、日野校長から、「そんな音じゃダメだ」とソロを認めてもらえなかった女の子。
「どうしてもやりたい」と、がんばってがんばって実現したソロ演奏だった。
彼女、無事吹き終わって号泣していた。
自分のからだよりも大きいトロンボーンにつかまり、しゃがみ込んで泣いていた。
日野さんも、うれしそうだったなあ。
この日、一番盛り上がった場面だったかもしれない。
ジャズは、泣ける。
ものでもある。のだ。
終演後、ステージには大仕事を見事にやり終えた達成感にあふれた子どもたちの表情が勢ぞろいしていた。
こんなに早い時期に、かくも大きな達成感を手に入れてしまって大丈夫かなあ。
そんな危惧が、ちらっと頭をよぎる。
つまらぬ取り越し苦労であればいいが。
なにはともあれ、来年もまた聴きにきたい。
ジャズは、美しい。
ジャズは、楽しい。
ジャズは、泣ける。
そんなことを教えてくれた、
<ドリバン>だった。
C終演後の終了式。全員大満足。いい表情がそろった。
この日、TV局二社が密着取材に入っていた。
放送日はまだ未定。
興味のあるかたは、世田谷パブリックシアターのホームページをこまめにチェック。
http://setagaya-pt.jp/
写真@〜C
撮影:牧野智晃
提供:世田谷パブリックシアター