2012年01月31日

誰の音かわかりますか?

本棚にあった本をパラパラめくっていたら、面白そうな記事が目にとまった。

ビル・エヴァンス―総特集 (KAWADE夢ムック) [ムック] / 河出書房新社 (刊)

1964年と68年の二回、ビル・エヴァンスが行ったブラインドホールド・テスト(BT)の模様を「ダウンビート」誌が掲載したもの。
ブラインドテストとは、薬効を調べる医療分野やオーディオ機器の世界でよく行われている検査方法である。

人間の感覚は、付帯する情報によって左右される。
この機器は300万円かかったと聞いて聴くのと、こちらは2万円の普及品ですと言われて聴くのとではまるでちがって聴こえてしまう。
薬の場合も、医者が処方したただの粉が治療効果をもたらすことがある。(プラセボ効果)
俳句の世界でも、「名前でよむ」ということが言われる。
著名な人の詠んだ句は、みんな名句に見えてしまうというあれだ。

だれの演奏と知らさずにレコード・CDを聴かせ、演奏者をあてさせる。
ジャズの世界にもこれがあったんだ。
もっとも近頃ではあまり聞かないが、どっかで行われているんだろうか。

どんな目的で行われたのか、企画意図はこの記事ではわからない。
お遊び感覚のクイズ番組のようなものかなと思ったが、ぜんぜん違うものでした。

演奏者名などの情報をシャットアウトし、音だけに集中する。
そのうえで、音の性格、善悪、演奏技術、ハーモニー、音楽的傾向などにつきコメントしていく。
しごくまじめなものでした。
演奏者の名前をあてることなどまるで意識していない。
だからというわけではないだろうが、15人(枚)聴いて演奏者名をあてたのは2、3人にすぎない。
面白くないと言ってしまえばそれまでだが、ポイントは、音を聞き、その善し悪しを判断するということにおかれているので、まあしかたがない。
しかし、あのビル・エヴァンスがどのように音を聞き、その美醜・善悪を判断しているのか。
それを知ることができるというのは、めったにないことであり興味もある。
特に、ぼくのような耳悪リスナーにはとても参考になるはずだ。
それがなによりもありがたい。
などと思いつつ読ませてもらった。


というわけで、以下、ビル・エヴァンスの音の聞き分け方、です。 

取り上げられたミュージシャンは。

ジャック・ウィルソンp/ジョン・クレーマーts/オスカー・ピーターソンp/ロバータ・フラックp/ハービー・ハンコックp/オリバー・ネルソンp/カウント・ベイシー/ドン・エリスtp/クレア・フィッシャーp/フリードリッヒ・グルダp/バディ・リッチds/ディック・ハイマンp、orgなど15人(枚)

1)ほめことば
・・・プロフェッショナリズムを感じる
・・・オリジナリティにあふれている
・・・豪華だし、それ自体が完璧
・・・とてもきれいで、陽気な感じ
・・・とても幸せで、軽快な演奏
・・・王道を行くいい演奏
・・・スウイングしていた。創造的だ

2)けなしことば
・・・特定のアイデンティティをもっているようには思えない
・・・これが何を目的としているのかわからない
・・・個性がまったく感じられない
・・・二度と聴けないとしても、残念と思わない
・・・どんな音楽にも美しいところがあると思うが、この楽曲はとても貧相だ

3)楽器について
・・・(フェンダー・ローズは)独特の調音があるし、独特の音色がある。唯一の難点、それはピアノの持つ深みは出せないということ

4)音楽全般に関して
・・・フリーやアヴァンギャルドというものはないんだ。音楽的に成り立ってなおかつ音楽でありうるものが存在するだけ
・・・良いものは良い
・・・本物を探すことだけが大事で、「一番」とか「唯一」とか「最高」とかいう言葉で区別をつけるのはやめるべきだ
・・・才能があっても、創造的な人は滅多にいない
・・・音楽的な内容がいつも最重要項目。20年も経てば目新しさに関する限りは、意味がなくなってしまい、音楽の内容だけが問われるようになる
・・・ビッグバンドはいろいろな才能の場、特に作曲者の登竜門


読んでみての感想は、なんかあたりまえのことを言ってるなあということかな。
と思いませんか。
音を言葉で説明することは不可能なのだからして、これはいたし方ない。
というか、あたりまえのなかにこそ聴き方の王道がある、ということなのかもしれない。

音楽は、聴いても読んでもむずかしい。
ビル・エヴァンスのコメントにも、きっと、ぼくには読みとることができない深い内容が含意されているのだろう。

ミュージシャンは、いったいどんなふうに音を聴いているのだろうか。
特別な耳で、違った音を聴いているんじゃないだろうか。
いつもの疑問が、また、わき起こってくる。
ぼくなどとは違った音を聴いているとしたら、それはそれでちょっとくやしい。


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2012年01月16日

心やさしい蛮族──ジャズピアニスト 石田衛さん

ジャズピアニスト、石田衛さん。

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1978年5月1日生まれ。東京都江戸川区出身。
幼少の頃より父親の影響でジャズに親しみ、トランペットを手にする。中学生の頃にオスカー・ピーターソンを聴きピアノに転向。高校時ジャムセッションで和泉聡志(g)、高橋信之介(ds)、堀秀彰(pf)らに出会い刺激を受ける。
大学入学と同時に他大のジャズ研に入り、セッションを重ね、演奏活動を開始する。
2001年には横浜ジャズプロムナードコンペに西本康朗(as)バンドで出場しグランプリを受賞。その後、演奏活動を本格的に行うようになり、石崎忍(as)、原朋直(tp) 、原大力(ds)、多田誠司(as)、山口真文(ts) 、MAX IONATA(ts) らと共演。
現在は、植松孝夫(ts)、太田朱美(fl) のRISK FACTOR 、川崎太一朗(tp)、守谷美由貴(as)、鈴木勲(b) OMA SOUND、JiLL-Decoy association 等のライブやレコーディングに参加する傍ら、自己のグループでも活動している。
2007年4月にファーストアルバム 「IEMANRO」(BQ Recods) を発売し、2011年3月に、Mike Rivett(ts) 工藤精(b) 大村亘(ds) と録音したセカンドアルバム「ISHIDA MAMORU 4 feat. MIKE RIVETT」(ANTURTLE TUNE ANALOG RECORDINGS)を発売。


こんなに楽しそうにピアノを弾く人をみたことがない。
ピアノを弾きながらいつもニコニコしている、という印象がある。
客を意識して笑っているのではない。
意識せずフト顔に出る自然体的笑い(そんな笑いがあるとして)なのだ。
リスナーも、いつのまにかリラックスしていて、石田さんのピアノを楽しんでいる。
たくまずしてそんな雰囲気をかもしだすピアニストである。

IMG_1079.jpeg
新宿・PITINNライブ
左から、石田衛p、池尻洋史b、守谷美由貴as、今泉総之輔ds、かむろ耕平g


4、5年ほど前、守谷美由貴さん(as)のユニットではじめて聴いた。
それ以来、ほかのバンドを含め20回以上は聴いている。
いつどこで聴いても、石田さんのそんな楽しそうな雰囲気は変わらない。

なにがそんなに楽しいのだろうか。

ピアノを弾くことが心底好きなんでしょう。このひとは。
うれしくてたまらない。
そんな気持ちが、聴いている人間にもストレートに伝わってくる。
人柄や演奏スタイルのせいもあるのだろうか。

評論家の悠雅彦さんが、石田さんの初CDに寄せたレヴューで、彼のことをこう評している。

・・・石田のタッチは柔らかい。自己主張を表に出すタイプではなく、強烈な印象を聴くものに与えることもない。だが、聴いていくうちに穏やかな寛ぎが広がる。心地よい。衝撃性がないためか物足りなさを感じるのも事実だが----それだけこの新鋭は自我が柔らかく、センスがナイーヴなのだろう。

ぼくもずっとそんなふうに感じていたし、多くの人の彼に対する印象も、おおかたそんなところだろう。

だがまてよ。それだけじゃないぞ。この人は。
石田衛はもっとちがった<もの>をもっている。
表面的な穏やかさの下に、一筋縄ではいかないなにかちがったものをもっているピアニストのようだ。

茫洋とした穏やかさ。
自己主張を前面に押し出さないふところの広さ、やわらかさ。
そんな顔の下に、どうやらアグレッシブで鋭い攻めの精神を隠しもっているらしい。

いつのころからか、そんな気がしてならなくなっている。
そして、ときに、石田衛のもうひとつの顔を垣間見ることができることに気がついた。

たとえば、注意して聴いているとわかるのだが、バンドが即興演奏に入ると、この人の顔つきが変わってくる。
それまで以上に、楽しくてたまらないという表情になってくる。

極めつけは、コール&レスポンス(C&R)だろう。
ここに、かくれていた石田さんの<本性>があらわれてくる。

普通のC&Rは、AがしかけBが応える。
新しいアイディアを提示し、それが受け入れられ、思いもよらぬ返事となって返ってくる。
互いの思いと思いがぶつかりあい、変化し、やがてひとつに融合する。
うまくいったとき、ミュージシャンはたまらない愉悦を感じているにちがいない。
聴いているほうにもその楽しさは伝わってくる。
ジャズの醍醐味のひとつである。

そのように、呼びかけに対し答えが返ってくるのが普通のC&Rとすれば、石田衛さんの場合は、かなりちがう。

絶え間ないしかけ。
鋭い突っ込み。
ほとんどコールにつぐコールじゃないかと思えるほどに攻撃的で、攻めっ気が強い。
しかけにしかけるアグレッシブなC&R。
そんなしかけがなによりも楽しいのだ。
楽しくてしょうがないという顔になって演奏に没頭している。
<穏やかな調和>より<動的な平衡>(福岡伸一)にこそジャズの醍醐味がある。のかな。

そういえば、ピアニストの中村紘子さんに、『ピアニストという蛮族がいる』という本があった。心やさしき蛮族が、ここにもいた。
そんな気がしてならない。

ハッハッハ、ぜんぜんちがうよ、と笑われるかな。
まあ、いっか。これがぼくの聴き方なんだ。


余談ながら。
石田さんの横顔は、さる高貴な皇太子によく似ている。
正面からの顔は、こないだ拝見する機会があったが、こちらはまるで似ていない。
だれに似ていようがそんなことはどうでもいいのだが、横顔をみるとなぜか、「フムフム、よく似ている」とひとりうなずいている。

CD収録曲に「NEKO」という曲がある。
猫好きとお聞きしている。
安田幸司(b)、池尻洋史(b)さんたちと、千葉大ジャズ研で腕をみがいた時期がある。
千葉在住、大の猫好きのぼくとしては、それだけでも聴きにいかなければならない人。
石田衛さんです。


★Mamoru Ishida official web site

Iemanro / 石田衛トリオ (演奏) (CD - 2007)

ISHIDA MAMORU 4 feat. Mike Rivett / 石田衛 (CD - 2011)
posted by 松ぼっくり at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ミュージシャン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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